このブログには学生さんも多くいらっしゃってるようなので
一人暮らしって人も多いのではないかと思います。
ガイドライン及び法律から私の考えを述べているに過ぎませんが、そんな方は頭の片隅にでも置いておくと役に立つ日が来るかもしれません。
※以下の事例と全く同じ状態だとしても、その結果を保証するものではありません。私もやってみようと思っても自己責任でお願いします。
今、お仕事の関係で賃貸物件の敷金返還案件に対応しています。
■原因
3年間アパートを借りていた借主は、この度退去することになりました。
1週間後、借主の両親から連絡があり至急敷金を返してくれと要求がありました。
ですが、貸主が部屋を見たところ以下の問題点がありました。
・クロスについたタバコのヤニ汚れ(重度ではないがニオイが強い)
・トイレのドアに殴った跡がある(血痕までついてる)
・ガラスに複数のヒビが入っている。
・鍵がスペアになっている。トイレの事から鑑みて借主の関係者(彼氏?)が合鍵を持っている可能性がある
なので、貸主はその修理代を請求することになる(敷金を超える)というわけです。
しかし借主は「トラブルにしたくなかったので弁護士からガイドラインを貰ってきている。その請求は不当」と言っています。
ここで出てくるガイドラインというのは、国土交通省が発行している
【原状回復をめぐるトラブルとガイドライン】
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf
というものです。
今回の件は既に上記のようなやりとりがあり、お互いが譲らない状況から落としどころを探る事になりますが、本件に関しては借主の負担が多くなると考えています。(僕は元々オーナーサイドについているので、贔屓目なところもありますが)
一度ここでおさらいをしておきます。
・借主の主張
1.ガイドラインによるとクロス交換など借主は負担する必要がない。
2.同じくクリーニング代の請求は無効
3.トイレのドアのことは知らないがガラス割れは最初からあった
・貸主の主張
1.タバコのヤニ汚れ、お風呂のカビなどは借主負担なので、クリーニング代がかかる
2.ガラスにはワイヤーが入っており、錆びてないので最近割れたものである
3.最初から異常があったにしろ、その連絡が一切ない。その主張は無意味
4.スペアキーを作成したとなると、退去後も入れるとなると困る。鍵の交換も必要。
5.クリーニングについては、契約書に特約として明記・説明してあり有効である。
ということになります。
では、借主の負担が多くなると考えている根拠について説明します。
■"常識的な範囲"であれば特約によるクリーニング代の請求は有効と考える
借主が主張している"無効"の根拠は消費者契約法第10条にある"消費者の利益を一方的に害する契約は無効"という記載にあるわけですが、何を書いても無効なのであればそもそも特約をつける事自体が無駄な労力なわけで、そうでない根拠もまたあるわけです。
その根拠というのは、"契約自由の原則"です。
契約自由の原則とは、見たままの通り「基本的にどんな契約をしても良いよ」という意味を持っています。
契約を結ぶのも結ばないのも自由なわけです。
なので、契約締結後になって契約の内容に納得がいかないと言われても・・・という事ですね。
また、消費者契約法第10条を成立させるには、いくつか影響してくることがあります
1.その地域の慣習(地域で見た場合一般的に行われているか)
2.実際の汚れの状態が、自然損耗か故意過失か
3.特約の内容(相場と比較して高額でないか、など)
今回の場合、クリーニング代特約は全国的に行われており、汚れがヤニ汚れもあり、相場と比較して同等なので、特約は有効と考えるのが自然なのです。
かといって、契約自由の原則片手に暴挙を振りまいたら困りますよね(と言っても個人的には契約書も読まずに契約するのがどうかと思いますが)そういう場合に消費者契約法が出てくるわけです。
あくまでも、今回の場合消費者契約法に違反していない可能性が高いというだけで、明らかにおかしい契約には使う事が出来ますのでご安心下さい。
また、現状回復という言葉に騙されがちですが、入居当時の状態に戻す事が現状回復というわけではありません。
あくまでも自然損耗を除いた故意過失の部分について回復する必要があるだけですので、自然損耗だけの人は特約がついてない限りクリーニングを受け入れる必要はないわけです。
■浴槽のカビ汚れは"善良なる管理者の注意義務"に違反する。
通常"善管注意義務"と言います。
これは、車でもCDでもなんでもそうなんですが、他人と貸し借りをした場合、借りた側が全力で大切に扱うのって当たり前よね。という道徳的なところからきています。
借りた側は、全力で借りた物に傷がつかないよう注意しなければならないという事なんです。
なので浴槽のカビは、日々手入れを行っていればつくものではなく、管理者(借主)の怠慢という認識になります。
ちなみに、雨の日に窓をあけたままでフローリングに色褪せが出来たとかもそれにあたります。
■クロス交換の負担は必ずしも貸主負担というわけではない。
ここが一番やっかいというか、絶妙なところです。
ガイドラインによると、クロスやクッションフロアについては、経年劣化を考慮すべきというような事が書いてあります。
どういうことかというと、「クロスとか普通に生活してたら汚れるでしょ」というものでありクッションフロアも、荷物を置けば凹んでしまいしばらく元には戻りません。
でも、それって生活してたら当たり前なんじゃない?という疑問は当然ですよね。
なので、ガイドライン上では住んだ年数によって負担額を減らしていきましょうと設定されているわけです。
なので、その"自然損耗"部分は毎月の家賃に含まれるとし、クロスを交換したりする必要がある時は故意過失部分について借主が負担しましょうという事になるわけです。
そこで今回の問題。借主は3年住んでいて、ヤニ汚れの故意過失がある。ということになります。
ヤニ汚れといってもクリーニングで落ちるもの・落ちないものがあり、落ちないものであればクロス交換しても良いとされていますが、負担がゼロというわけではありません。
居住3年で故意過失有りであれば実際にかかった料金の50%程度は負担する必要があると思われます。
※ここでは省略しますが負担割合は年数によって変わるので、ガイドラインに目を通したほうが良いです。
■ガラスの割れがいつであっても関係ない
ここも、結構微妙ですが、この件においては借主負担の可能性が高いと考えられます。
ガラスは先に上げた経年劣化を考慮するものではありません。仮に最初から割れてたとしたら何故入居時にその事を言わなかったのかという事になります。
なおかつ、ワイヤーの錆がない点を考慮しても比較的新しいものであり、故意ではないにしろ借主の主張はおかしいと考えます。
では、自然破損はどうでしょうか?
「最近気付いたら割れてた」実はこの手の窓にはよくあります。
鉄線入りガラスは、鉄線部分への寒暖の差でガラスにヒビが入りやすいのです。
というわけで、故意過失がなければ貸主の負担となります。
ここで注意すべき点は割れたらすぐに大家に連絡しましょう。しばらく経って連絡したのでは、なんで言わなかったの?後ろめたい事あるんじゃないの?と勘繰られても仕方ありませんし、場合によっては保険で修理したり出来る場合もあります。その場合すぐに申告がなければ善管注意義務違反を取られても仕方ありません。
と、本件に話しを戻しますが、最初から割れていたという借主の主張がおかしい点、トイレのドアに殴った跡がある点、ヒビが複数ある点(同時にすり傷も多い)を考えるとやはり故意過失があると考えるのが自然ではないでしょうか。
以上のことから、本件において借主のほうが不利であるという事がわかると思います。
実際のところ、これで借主を納得させられたら簡単なんですが、そうもいかないでしょう。ですが、借主側から「弁護士に相談してガイドラインを貰った」という明確な攻撃姿勢も見えるので、きちんと解決したいと思います。
裁判とか弁護士とか警察とかって名称は使うだけでも相手に対する脅しの効果があるものです。そうやって下手に使うと大変なことになるので皆様もご注意を。
さて、これだけでは貸主が強いと思ってしまうかもしれませんが、あくまでも今回の件においては貸主が有利というだけです。
借主さんは以下の事に気を付けるだけで円満退去が出来ると思います。
■契約書の内容にはしっかり目を通す。
といっても不動産(宅建主任者)には全項目を説明する義務があったと思うので、通常聴いているはずなのですが、よくわからない事もあり流してしまっている人も多いと思います。
法外なものであれば特約も無効となりますが、相場の範囲でもクリーニング代をどうしても払いたくないとか、自分でクリーニング業者を選定して呼びたい、とか言う場合には入居する前にその交渉をするべきです。判子をついた後では遅いわけですね。
※といっても、クリーニング特約は全国的に行われていることで、ついてないほうが珍しいです。1Rであれば2?3万くらいなので必要経費と考えるのが選べる物件も多くなり精神的にも楽かと個人的には思います。
■故意であれ自然であれ、何かあれば即連絡。
これは本来言うまでもありません。部屋はそもそも大家の持ち物なんですから、何かあれば連絡するのが当然です。車借りて事故して黙ってる人なんていませんよね。
上にも書きましたが、本来使えた保険が連絡がなかったから使えなかったという場合もあります。なので必ず連絡をするべきです。
■敷金を返して欲しいなら善管注意を!
昔の考え方ではお世話になる貸主に対しても感謝するべき、なんて考え方もありますが、僕自身はそこまで考える必要はないと思います。
ですが、貸してもらった物は大切に扱うべきです。それをしないのなら修理費を払うのは致し方ないんじゃないでしょうか?
というわけで、全国の貸主・借主さんの参考にと事例の一つとして書きましたが、ご理解頂けたでしょうか?
借主さんで、敷金返還の闘争をしよう!と考えてる方は盲目的にガイドラインの都合が良い場所ばかり拾って読んでしまいがちですが、あくまでも双方の落としどころの相場がかかれたものなので、下手にガイドライン!ガイドライン!と声高に言ってしまうと損する場合もあります。(善意で安くしてくれる大家さんも沢山いますので)
貸主さんにとっては、この辺の事についてはご存じかと思いますが、おさらいにでも使って下さい。もし泣き寝入りしているなら利用する価値もあるかと思います。
※改めて申し上げますが専門家ではないので、一つの事例として参考にしてください。